辻村深月先生は「先生」と呼ぶにふさわしい
辻村深月という作家がいる。
彼女は、僕らの世代=子どもと大人の境い目にいる存在、の味方である。
全著作を読んだわけではないが、彼女の本にはほぼほぼ外れがなく、デビュー作から一貫して高い水準で作品の質を保っている。
僕は彼女の作品が好きである。
どちらかというと、likeよりlove寄りで好きだ。
その理由は、「メッセージ性」と「僕らの目線に立った愛」に尽きる。
「スロウハイツの神様」という作品において、
「僕は29歳です。物語に人生を変えられるような年代は、もう過ぎたんですよ」
という文があり、それを読んでひどくショックを受けたことがある。
ああ、自分は今、読む本読む本に劇的に人生を変えられているけど、この時期はもう10年もしたら終わってしまうんだ、と悟ったのだ。
17歳の頃だったと思う。
そして、今、それより少し年をとり、その「予言」が当たり出してきていることを実感している。明らかに1冊1冊読む本に対しての感性が鈍くなっているのだ。
この作品においてひどくショックを受けた自分であるが、同時に辻村先生は「その先の未来」も提示してくれていた。
ネタバレになるので詳しくは書けないが、
「物語によってつながり続ける関係」というのを最良の方法で描き切ったのだ。
あの感動は忘れられない。
また、「ハケンアニメ!」というタイトルにおいては、
「生きろ。
君を絶望させられるのは、世界で君1人だけ」
というセリフが、どうしようもなく心に響く。
あの作品のようにひたすら楽しく、キャラに愛おしさを抱き、キャラの心情に自分の心情を重ね合わせた本には、最近出会えていない。
そして、最後に紹介するのが
「かがみの孤城」である。
この作品、なんと驚くなかれ、不登校児7人が主人公である。
率直な感想を言うならば、
「自分のために書かれた作品かと思った」
である。
あの誉れ高い本屋大賞も受賞した、著者渾身の、書かれるべくして書かれた、
そういう大傑作だ。
かつて、不登校児の心情をここまで綿密に描写し、かつ徹底的に救いきった作品があっただろうか。
不登校に限らず、人生に悩める若者すべてへの応援歌になっているのも、傑作たる由縁である。
詳しく紹介したいけれど、語ろうと思えば3時間ぐらい語れてしまうので、またの機会に書こうと思う。
ともかく、辻村深月はデビュー作から一貫して僕ら、大人でも子どもでもない存在のために書いてくれている。
これほど、「先生」と呼ぶにふさわしい先生は、いない。
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